ロング・ディスタンス
「栞の目下の心配事は恋敵の出現なんだ?」
「ううん。それがそんなに心配じゃないんだ。太一さんも『俺を信頼して』って言ってくれてるし。なんかね、神坂先生と付き合っていた時のことを振り返ると、普通の女の人が気にするようなことなんて全然苦痛でも何でもないっていうか。前の恋愛が悲惨すぎたから、多少のことなんてどうってことないの」
「そっか」
 不幸な恋愛経験で鍛えられたなんて、皮肉なことだと成美は思った。
「でもさ、恋敵の出現で長濱さんの価値がわかったでしょう? 去年の今頃、あんたは彼に物足りなさを感じてたじゃない? 言っとくけど、いくら名医でもあんたの元不倫相手みたいなオッサンじゃあ、島の乙女を夢中になんてできないよ」
「そうね。まあ、太一さんの価値は、彼が島に行く前からわかってたけどね」
「言ってくれるじゃん。……ところで、これ美味しいね」
 成美はお土産のロールケーキについてコメントする。
「うん。これ、太一さんの大好物、海燕堂のロールケーキだよ。生クリームの中に季節のフルーツが入っているの。島に行く度に持っていってるんだよ。彼、甘党なんだ」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、栞は甘いものを差し入れて、長濱さんの胃袋をつなぎ止めておかないと」
「そうだね」
「ねえねえ、スイーツと言ったらさ、駅前のケーキ屋さんのカスタード・シュークリームが美味しいんだよ。今度島に行く時はそれを持っていったらどう?」
「それって、ローカル情報誌にも載ってたやつでしょ? バニラビーンの粒が入っているシュークリームでしょ?」
「そうそうそう」


 女同士の会話は、夕方までエンドレスで続いた。
 友人とこんなにいっぱいしゃべるのは、もしかしたら高校時代以来かもしれない。
 気が付くと時刻は5時を回り、光太郎が官舎に帰ってきていた。光太郎の提案で、その夜、栞は伏木家で焼き肉をごちそうになっていくことになった。
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