ロング・ディスタンス
 リビングのローテーブルの上には紅茶と栞が持参した海燕堂のロールケーキが載っている。今回の季節のフルーツは白桃だ。

「で、あんたは長濱さんと上手くいってるんだ。良かったじゃん」
 栞の近況はこれまでにも携帯で聞いていた。
「うん。自分でも上手くいくなんて思ってなかったけど、太一さんに受け入れてもらったよ。ふられてもおかしくないと思っていたのに」
「うんうん、良かったじゃない。私もまさかあんたの口からおのろけを聞く日が来るとは思わなかったよ」
 それを言うと栞は照れ笑いを浮かべた。こんな表情、一年前には見られなかった。
 それから栞は、長濱の同僚、辻堂の家へ呼ばれた時のことを話した。
「へえ。長濱さん、やっぱ島では人気者なんだ。栞もぼんやりしてられないじゃん」
 成美は辻堂の妻、美加子が話していたことに言及する。
「うん。それ、奥さんも言ってた」
「『肉弾戦』だなんて笑っちゃう言葉だよね。島の女の人ってそんなに積極的なんだぁ」
「うん。早速、第一村人ならぬ第一恋敵発見だったよ。この前、太一さんのお家に行ったら、彼のことが好きそうな女の子が差し入れ持ってきてた。玄関から私の顔見て、ショックを受けて帰っちゃった。なんでも彼女は近所の子で、しょっちゅう彼に差し入れを持ってくるんだって」
「うわ、そうなんだ。すごー。職場とか学校とか、そういう接点がある関係じゃない人に、普通そこまでアプローチできないよね。若い独身の医者でイケメンときてるから、是非とも長濱さんと付き合いたいんだよ。あわよくば彼と結婚して、彼の年季が明けるとともに本土にお引越しっていう青写真を描いているんだよね、きっと」 
「そうだと思う」
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