ロング・ディスタンス
 ひとしきり泣いて疲れると、栞は立ち上がって夏服に付いた砂を払った、
 いつもの旅館にはまだ空きがあるだろうけど、いかんせんここからは遠い。時間も遅い。

 その夜、栞は長濱の同僚、辻堂の家に泊まらせてもらうことにした。
 彼女が泣き腫らした顔で訪問すると、夫婦は余計なことは聞かずに彼女を家に上げてくれた。
 二人は栞を客用寝室で一人きりにしてくれた。

 妻の美加子は太一の携帯に連絡をして、栞がこちらに泊まっていることを話した。太一は栞の身を案じて集落を探し回っていたが、美加子からの電話を受けて一安心した。太一は先刻のことを掻い摘んで美加子に話した。彼女が栞のことは任せてほしいと言ったので、彼はその言葉に従うことにした。

 翌日。結局、栞は太一に会うことを拒み、朝一番の便で島を発った。
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