ロング・ディスタンス
 今晩のメニューは夏野菜と魚介類の天ぷらにざるそばだ。
 このメニューにはよく冷やした日本酒が合う。この家の人間は皆、いけるクチだ。
 亡き父親に代わって義兄の和真が太一に一献差し向ける。太一も彼に酌をする。和真と太一は同年輩だ。

「いやー。まさか栞が男のお友達を連れてくるなんて思わなかったわぁ。この子にボーイフレンドを紹介されるのって初めてのことなんだもの。しかも、こんな男前さんを連れてくるなんてね」
 母親はとてもうれしそうな顔をしている。
「ホント、この子、一時期は全然うちに寄りつかなかったもんだから、一体どんな生活送ってんのか謎だったのよ。そうこうしてる内に病気にはなっちゃうし。心配してたけど、いつの間にかイケメンのお医者さんを捕まえてたから安心したよ」
 姉の文佳もほろ酔い気味で同調する。
「そうよねえ。去年お友達の成美ちゃんが結婚したでしょう。栞には誰かいい人はいないのかなって思ってたのよ。だってもう28でしょう? 長濱先生、この子ってこう見えて意外と晩生なんですよ。学生時代から、今までこの子にボーイフレンドがいるって聞いたことないし」
「別に私、そんなんじゃないし……」
 母親の言葉に栞はちょっと気まずい思いをする。
「栞、もしかして男の人と付き合うのは長濱先生が初めてなんじゃないのぉ?」
 文佳がいい感じに酔って訊いてくる。
「あ、あのそれは……」
 何でそういう質問をするかなと栞は思った。家族が我が家の次女のことを過大評価しているのが痛々しくてたまらない。
 太一はきょとんとした顔で家族の遣り取りを聞いている。
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