ロング・ディスタンス
「まあまあ、大人はそんな野暮な話はしなさんなって。先生。さあさ、もう一杯」
 和真が太一に酒を注ぐ。
「ありがとうございます。児島さんちの天ぷら、美味いですね。この掻き揚げ、何が入っているんですか」
 太一もさりげなく話を変える。
「それにはね、干しエビと玉ねぎとカボチャと剥いた枝豆が入っているんですよぉ。私のレシピは栞にもいくつか伝授してますから、お気に召したのなら、今度は栞が先生に作りますからねぇ」
 母親が得意げに言う。
「それはうれしいですね。俺、天ぷら好きです」
 太一も笑みを浮かべて言う。
「先生は好き嫌いとかは?」
「嫌いなものは特にないですね。好きなものはスイーツです」
「甘いものがお好きなんですね。ケーキとか? 和菓子もいけるの?」
「甘いものは大概何でも好きですよ。和菓子も好きです。いつも栞さんが島に遊びにくる時は、俺の好きな海燕堂のロールケーキを持ってきてくれるんですよ」
「まあ、海燕堂の? あそこのお菓子、美味しいですよね! 私はあそこの栗どら焼きが好きなんですよ」
「俺もそれ好きです」
「まあ、スイーツ男子だなんて素敵じゃない。デートはケーキ屋さんに決まりだね」
 姉の文佳が言う。
「ええ。女の人が一緒にいてくれるとそういう店にも入りやすくていいですよね」
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