ロング・ディスタンス
太一が何か言い掛けた時、和真が割って入ってきた。
「まあまあ。今は付き合い始めの初々しい気分を味わう時期なんですよ。そういう話は追々ゆっくり考えればいいんです。先生、さあもう一杯」
和真が太一に酌をする。栞は心の中で義兄の助け舟に感謝した。
「栞ちゃんが難病から生還したんだ。それだけでもありがたいことじゃありませんか。ねえ、お義母さん」
「そうね。あの時は本当にどうなるかと思ったわ」
「そういえば栞。病気が治ってからなんか別の人に生まれ変わったみたいになったよね。一皮剝けたっていうか」
文佳が言う。
「そうかな」
「そうよ。前のあんたは、何ていうかもっと切羽詰まってったって感じ? 今のあんたの方が余裕を感じるよ」
血を分けた姉だけあって文佳は妹の変化をよく感じ取っている。
「やっぱ人間、一度地獄を見ると人生観が変わるのかな」
「どうかしらね」
姉の言う「地獄」いうのは闘病生活のことを指しているのだろうが、栞にはそれ以外にもというかそれ以上に過酷な地獄があった。憑き物が落ちたかのように見えるのは数年来の不毛な関係を清算したからだろう。
「まあまあ。今は付き合い始めの初々しい気分を味わう時期なんですよ。そういう話は追々ゆっくり考えればいいんです。先生、さあもう一杯」
和真が太一に酌をする。栞は心の中で義兄の助け舟に感謝した。
「栞ちゃんが難病から生還したんだ。それだけでもありがたいことじゃありませんか。ねえ、お義母さん」
「そうね。あの時は本当にどうなるかと思ったわ」
「そういえば栞。病気が治ってからなんか別の人に生まれ変わったみたいになったよね。一皮剝けたっていうか」
文佳が言う。
「そうかな」
「そうよ。前のあんたは、何ていうかもっと切羽詰まってったって感じ? 今のあんたの方が余裕を感じるよ」
血を分けた姉だけあって文佳は妹の変化をよく感じ取っている。
「やっぱ人間、一度地獄を見ると人生観が変わるのかな」
「どうかしらね」
姉の言う「地獄」いうのは闘病生活のことを指しているのだろうが、栞にはそれ以外にもというかそれ以上に過酷な地獄があった。憑き物が落ちたかのように見えるのは数年来の不毛な関係を清算したからだろう。