ロング・ディスタンス
それから話題は太一の島での生活のことに及んだ。彼の離島での年季が明けるのが数年先になりそうだということを聞くと、母親はあからさまに残念そうな顔をした。
「そう。島にはそんなに長くいなきゃいけないんですね。それまで二人は月一回しか会えない生活が続くのねぇ」
「お母さん。仕事なんだからしょうがないじゃない。太一さんは医療過疎地の医療を担う大事な存在なのよ」
栞が言う。
「そうは言ったって栞。あんただってもう28でしょ。三十路に入ってまで何年も先生の帰りを待つのかい? 大学病院の仕事だって辞めてよその契約職員になっちゃうし、この先どうなるのかわからないんだよ」
酔っ払いの会話は実にざっくばらんだ。
「お母さん! お客さんの前でそういう重い話はやめてよ!」
「そうは言ったって、お母さん、あんたのことが心配なんだよ。あんたたちは付き合い始めてもう長いのかい?」
「ううん。まだ付き合い始めてそんなに経ってないよ。だから余計なこと言わないで……」
「長濱先生。この子は本当に気立てのいい娘なんです。この子を先生のお嫁さんにしてはくれませんかね」
栞の抵抗も空しく、母親は長濱に「余計な」一言を言ってしまった。栞は「あーもう、やめてよー!」と心の中で叫んだ。
恋人の母親にいきなり核心に迫られて、太一は驚いた表情を浮かべている。栞はもう気まずさが最高潮に達していた。そもそも今日だってケンカしたばかりで、二人はまだそんな話が出るほど完成した関係ではないと思っている。
「あの、俺は……」
「そう。島にはそんなに長くいなきゃいけないんですね。それまで二人は月一回しか会えない生活が続くのねぇ」
「お母さん。仕事なんだからしょうがないじゃない。太一さんは医療過疎地の医療を担う大事な存在なのよ」
栞が言う。
「そうは言ったって栞。あんただってもう28でしょ。三十路に入ってまで何年も先生の帰りを待つのかい? 大学病院の仕事だって辞めてよその契約職員になっちゃうし、この先どうなるのかわからないんだよ」
酔っ払いの会話は実にざっくばらんだ。
「お母さん! お客さんの前でそういう重い話はやめてよ!」
「そうは言ったって、お母さん、あんたのことが心配なんだよ。あんたたちは付き合い始めてもう長いのかい?」
「ううん。まだ付き合い始めてそんなに経ってないよ。だから余計なこと言わないで……」
「長濱先生。この子は本当に気立てのいい娘なんです。この子を先生のお嫁さんにしてはくれませんかね」
栞の抵抗も空しく、母親は長濱に「余計な」一言を言ってしまった。栞は「あーもう、やめてよー!」と心の中で叫んだ。
恋人の母親にいきなり核心に迫られて、太一は驚いた表情を浮かべている。栞はもう気まずさが最高潮に達していた。そもそも今日だってケンカしたばかりで、二人はまだそんな話が出るほど完成した関係ではないと思っている。
「あの、俺は……」