ロング・ディスタンス
離島
 川の水が絶えず流れているように、人の在り様も常に変化している。
 変わらないものは一つとしてなく、変わらない人も一人としていない。
 それがこの世界の理なのだ。

 伏木成美は年が明けてから懐妊したことがわかり、次年度の途中から産休に入る予定だ。伏木夫妻は成美の出産が落ち着いてから、来年当たり家を建てようと計画している。公私ともに順風満帆な二人だ。
 太一と栞の思い出のユリ園は、公営であったがために自治体の予算削減のあおりを受けて閉園された。幸いにして、同じ敷地内にあるガラス張りのカフェレストランは存続している。
 太一と栞の仲を取り持った看護師の細谷は、恋人で栞の元同僚の浅羽泉と別れてしまった。彼らと同じ大学病院に勤める薬剤師が泉に横恋慕したことが原因らしい。泥沼の三角関係を展開した後、最終的に薬剤師が細谷から泉を奪い取った。
 人間、何が起こるかわからない。

 それから、年度末の人事異動が発表される直前、国立大学附属病院を揺るがすスキャンダルが起こった。内科のホープ、神坂暁准教授が夜間に車を走行中に人身事故を起こしたのだ。
 事故当時、彼が助手席に内科の女性看護師を乗せていたことが露見した。彼は彼女を乗せて、夜景で有名な町の埠頭に向かっている途中だった。
 人事異動の内示が出る前から神坂の教授への昇進は確定と噂をされていたが、この事件でそれはふいになった。それどころか彼は大学病院にいられなくなり、義父が経営する医療法人の傘下にある病院に移っていった。

 まかり間違えば、その車の助手席に乗っていたのは栞だったかもしれない。
 人生の歯車がどこでどうなるかは本当にわからないものだ。
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