ロング・ディスタンス
「おばさん。こんにちは!」
 児童の集団の中から、聞き覚えのある声がした。彼女の前に、黄色い通学帽をかぶった女児が立っている。
「あ、芽衣ちゃん。おはよう! 今日は元気?」
「うん。元気だよ」
「お家の人たちも元気?」
「うん。とっても元気。ママ、学校でおばさんに会ったらちゃんとあいさつしなさいねって言ってた」
「そう。私からもよろしく伝えておいてね。今度またお家に遊びにいくって言っといて」
 女児は元気よく「はい!」と答えてから、慌てて口元を手でふさいだ。
「どうしたの?」
「やばい。おばさんは先生だから、小学校に入ったらおばさんのこと『伏木先生』って呼びなさいって、ママに言われてたんだ。忘れてたぁ」
「そうなんだ」

 成美の友人にそっくりな面差しの女児は「しまった、しまったー!」と叫びながら、パタパタと校舎の方へ走り去っていった。
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