ロング・ディスタンス
 太一が4年間に及ぶ離島での勤務を終えた後、長濱夫妻は町に戻ってきた。
 彼が国道沿いの通称「医療村」と呼ばれる地域で整形外科を開業してから、数年が経つ。

 成美は偶然、彼らの住む学区へ赴任することになった。
 長濱夫妻は三人の子供に恵まれた。現在、芽衣と呼ばれる女の子の他に、上の男の子がこの学校の3年次に在籍している。その男の子がまた、太一にそっくりなハンサム君なのだ。兄妹は医者の子弟にしては珍しく、普通の公立小学校へ通っている。
 末の男の子はまだ幼稚園に通っている。子供たちは父親の影響を受けて、空手教室に通っている。

 開業当初は、栞も医院の事務や経理に勤しんでいたが、その後太一が新たに医療事務スタッフを雇った。院長の女房が仕事場にいると、スタッフが何かとやりづらいかもしれないという配慮から、栞は家事に専念することにした。
 今では優雅な開業医の奥様の生活を満喫している。デパートブランドの洋服を身に着け、お菓子作りの教室に通っている姿を見ると、キャリアウーマンの成美もちょっぴり友人がうらやましくなる。栞は甘いものが好きな夫と子供たちのために、美味しいお菓子作りを日々研究しているらしい。クリスマスには、シュトーレンというドイツのお菓子を差し入れしてもらったことがある。
 また、栞は読書が好きなので、小学校で読み聞かせのボランティアもしてくれている。校内で彼女にばったり会うこともある。
 もちろん、伏木家と長濱家は家族ぐるみの付き合いをしている。
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