ロング・ディスタンス
 ウェディングケーキにナイフを入れた後、司会者が次の演目を告げた。
「それでは次にブーケトスに移りたいと思います。出席者の皆様の中から独身の女性をお呼びしますので、呼ばれた方は前まで出てきてくださーい」
 司会者はご丁寧にも、会場にいる独身女性の名前を一人一人読み上げた。名前を呼ばれた盛装の女性たちが、笑みを浮かべながら次々と前に出てきた。
「新婦の高校時代からのご友人、児島栞さーん!」
 司会者が親友の名を呼ぶ。
 けれど、彼女は成美の前に姿を現さない。
 まさかと思った。いくら、春先に険悪な再会をしたからといって、いくらなんでも親友が自分の結婚式に来ないだなんて。

 成美の落胆をよそに、司会者はどんどん演目を進行していく。
「では成美さん。ブーケトスをお願いします!」
 成美は女性客たちに背を向け、淡い色のブーケを後ろに向かって投げた。振り向くと、斜め後ろに飛んで行った花束は、光太郎の親族のよく知らない女性がキャッチしていた。30代と思しきふくよかなその女性は、ブーケを手に入れてご満悦の表情を浮かべている。
 本当はこの花束を栞に受け取ってもらいたかったのに。
< 35 / 283 >

この作品をシェア

pagetop