ロング・ディスタンス
「だけど、そういう道っていうのは芸能界を目指すみたいなもので、なかなか険しかったんですよ。試合に出ていてもなかなか芽が出なくてね。そのうち左脚を故障して、結局格闘技は続けられなくなってしまったんです」
「そうだったんですか。それは残念でしたね」
 長濱が少しだけ脚を引きずっている理由がわかった。
「その時もう二十五を過ぎてたから、新卒の人ほど就職もかんたんじゃないしってことで、親は公務員試験でも受けろって勧めてきたんですよ。だけど、俺はやりたくないことはできないタイプで、どうせ違う道に進むなら少しでも興味を持てる分野に行きたいと思ったんです。ただ安定してるからっていう理由で、地元で公務員やるのもつまらないと思ったんですね。俺、脚を痛めてから、うちのジムのリングドクターのお世話になっていたんですよ。一時は歩けないくらいにひどかったんですが、先生には治療からリハビリのアドバイスまで色々していただきましてね。普通に生活できるほど回復したんです。俺も先生みたいに人を助ける仕事をしてみたいと思うようになって、外科医を目指すことにしたんです」
 長濱は朴訥だが、自分の気持ちをストレートに話している。
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