ロング・ディスタンス
「はい。俺、子どもの頃から空手をやっていて、学部時代に総合格闘技のジムに入っていったんですよ。4年間ずっと格闘技づけで、在学中からプロの格闘家を目指して試合に出ていたんですよ」
 そういえば、廊下で見掛ける長濱は細身ながらも長身で、いかにも空手をしていそうな風貌だった。
「はあ、総合格闘技って何なんですか? 私、そちらの方面のことは何も知らなくて」
「異種間格闘技ですよ。空手家や柔道家、ボクサーなんかが、競技種や階級を超えて戦うスポーツです」
「長濱先生はW大学の理工学部におられたんだけど、大学の実習そっちのけで格闘技にはまっていたんですよ」
 細谷がとある有名大学の名前を挙げる。
「卒業もやっとできたって感じだったし、普通の就職もしなかったもんだから、親父はヤキモキしていましたよ。『総合格闘家を目指す』って言ったら、『何のためにお前を理工学部にやったんだ?』って怒られましたよ。まあ、親の立場なら当然のことですけどね」
 普通、どんなレベルの大学であれ理工学部を出たら就職先はバッチリ見つかるものだ。まして、W大学のような大学を出たのならなおのことだろう。
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