ロング・ディスタンス
 栞は何気なく携帯を取った。指が画面上の文字盤を打ち始める。
“こんにちは。この前はバーベキューに付き合ってくれて、どうもありがとうございました。あれから先生にたずねられたことを考えました。お友達から始めるので良ければお付き合いします”
 長濱太一に向けたメールだ。栞は送信ボタンを押した。

 巷で時々聞く「友達から始める」という言葉の意味が栞自身にもよくわからなかったのだが、これは男女の関係が深い交際に発展する前にストッパーの役目をはたす方便なのではないだろうか。相手が気に入らなかったらいつでも逃げられる余地を残すので、実に便利な言葉だ。
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