鬼神姫(仮)
「違いますよ。この女があまりにもアホなこと言ったから呆然としただけです」
「アホなこととは何ですか」
銀の発言に雪弥はおもわず口を開いた。アホな発言をした覚えなど微塵もない。自分なりの考えを述べたらまでだ。
「俺はそもそもあんたを姫様扱いするつもりなんて、さらさらないっ。誰もがあんたを敬うと思ったら、それはとんだ勘違いだ」
先程の銀の視線の意味はそれだったのかと漸く判った。とはいえ、それをアホ呼ばわりされる謂れはない。
「まあまあ、なら、銀も賛成ってことだろ?」
「賛成も何も、そのつもりでしたよ」
銀はまるで不貞腐れたようにそっぽを向いた。
「……ありがとうございます。私はずっと、人間と親しくなりたいと、共存出来たら、と思っていまし……」
「それは無理だ」
雪弥が言いかけた言葉を遮ったのは銀だった。雪弥はそのことに驚き、彼の顔を真っ直ぐ見た。
「別に、俺はあんたと親しくなるつもりはない。それはあんたが鬼だからじゃなくて、俺とあんたは合わない。それだけのことだ」
「俺も鬼さんと仲良くするのはなぁ……」
銀と陽が思い思いに口を開く。言われていることはとてもではないか友好的な言葉ではないのだが、そこに悲しみは沸かなかった。寧ろ、沸いてきたのは怒りだ。
「お二人方っ、譲歩という言葉を御存知ないのですか?」
巴がここに来て初めて口を開いた。慌てて二人をたしなめているようだが、その実、その言葉が一番非礼に当たることに気付いているのだろうか。
「だって、嘘ついたって仕方無いだろ」
「同感」
三人の非常に腹立たしいやり取りに雪弥は盛大な溜め息を吐いた。先行きが思いやられる程度の話ではない。本当にこれで運命は廻るのかと、白瀬の占いに疑問を抱きたくなる程だ。