鬼神姫(仮)
雪弥は真っ赤な振袖に袖を通した。そして、器用に帯を結び、髪にも大きな牡丹の飾りをつける。姿見でおかしなところはないか確認をし、金色の帯留めを締める。
この着物の袖を通したのは初めてのことだった。
ずっと昔から受け継がれてきた着物。
大昔のものだというのに、その造りは古いものには思えない。
昔の着物というのは、こう、裾を引き摺って歩くイメージなのだが、これは違うのだ。
鬼神姫を名乗れる存在だけが受け継ぐもの。
雪弥は身が締まるのを感じ、自室を後にした。
一度廊下に出て、辺りに緋川達がいないかを確認する。もし、こんな姿を見られたら何事かと訊かれてしまう。
この時間帯であれば、緋川も浅黄も蒼間も自室にいるであろうが、万が一という場合もある。
雪弥は誰の人影もないのを確認してから早足で廊下を歩いていく。成るべく摺り足で、音を立てずに。
これには自信があった。
まだ運命を告げられる前はよくこうして屋敷から抜け出していたのだから。
窮屈な生活が嫌で、外の世界を知りたくて、何度も抜け出し、その都度緋川達に捕まっていた。
あの頃は、外になど出られなかったのだ。
鬼神姫を名乗れるものは数多くいない。
雪弥を含めて長い鬼の歴史でも五人しかいないのだから。
なのでその存在は貴重とされ、丁重に扱われてきたのだ。
しかし、雪弥にはそれが窮屈で堪らなかった。