鬼神姫(仮)
────人の世は、乱世の時代だった。
日の本の国であるにも関わらず、様々な国同士が戦を行い、領地を奪い、殺し、殺されていた。
「醜い。人間は本当に醜い」
将来自身の夫となる白鬼が盛大に眉をしかめた。ならば、共に聞く必要はないだろう、と葛は胸中で大きく息を吐いた。
西の番人である酉嶋凪はこうして、人の世の情勢を鬼達につたえる役目を持っていた。
この地は人間は近付いてはいけないという掟を遥か昔に立てている為、戦に巻き込まれることはなかった。それに、奪ったとしても些細な土地。権力を有せるものでもない。
「本日はこれまでに」
凪は深く頭を垂れた。
「凪様」
頭を上げ、去ろうとする凪に葛は声を掛けた。凪はそれに静かに振り返る。
一見、穏やかに見える顔立ちや雰囲気ではあるが、漆黒の瞳は何を考えているかはわからないものだった。それでも危険な匂いがするわけではないこの人間を、葛は気に入っていた。
それは好意とは違うものだが、共にいて安心感を覚える人間ではあった。
「あの……」
まだ席を立たぬ白鬼がいる為、言いたいことを口に出来ない。白鬼──白瀬知羽もそれをわかっていて、退席する素振りを見せないのだろう。