鬼神姫(仮)



血飛沫。

悲鳴。

苦痛の声。

知羽を抱き締める腕。

惨劇どころではなかっただろう。

葛はその様子を想像し、頭(かぶり)を振った。

知羽が人を嫌う理由は納得出来る。己の欲求の為に知羽の両親を殺した人間は、まさにそれこそ鬼であったろう。

言いたいこともわかる。

その件があってから、この地は五つに分かれたのだ。

鬼の住む地を中心とし、四方を人間の土地に囲ませた。それは決して鬼に危害を加えないという一族だった。そして、近隣の人間達に掟を作らせたのだ。

所謂不可侵条約。

長は知羽だった。

長い刻を過ごせる存在。いかなるときも、その条約を破らせない為に君臨した王。それが白瀬知羽だった。

その存在は鬼神姫や花雪姫をも凌ぐ者。

ここらの地にとって、絶対的な存在であった。

そんな知羽が自分が妻にめとるのは葛だと告げたとき、鬼だけではなく、人間達も驚いた。これまで、知羽は伴侶を設けたことはなかったのだ。

絶対的な王として、唯一人で君臨していた。



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