鬼神姫(仮)



人は醜い。人は鬼を殺す。本当に鬼なのは人間だ。

それが知羽の口癖であった。知羽は白鬼という貴重な存在。それは血脈としてではなく、突如生まれるもの。

元々、知羽の両親は蒼鬼だという話を誰かから聞いたことがある。蒼鬼から生まれた白鬼。

蒼鬼である知羽の両親は知羽を大切に育てていた。それは、知羽が白鬼だからではない。自身の子どもだからだ。

知羽は既に百歳を越えていると聞いた。見た目は自分と然程変わらない小柄青年。なのに、その体はもう百年以上の時を過ごしている。

そう考えると不思議なものがあった。

先代も、先々代もの鬼神姫を知るもの。

そして、知羽の両親は人間に殺されたのだった。それは、知羽の先見の力を欲しがる者の仕業だった。

この地は嘗て、人間と鬼が文字通り共存していたのだ。今のように地を分けることなく、同じ集落を持ち、鬼神姫と花神姫は同じ屋敷に住み、鬼と人間の交わりも少なからずあった。

けれど、力を得る為に鬼を利用する人間がいたのだ。

権力を手にする為に、知羽の先見の力を利用しようとしたのだ。知羽の両親はそれに反対した。知羽の力は人間の権力争いに使うものではない。鬼と人間が幸せに暮らしていく為に使うものだと。

しかし、人間達は納得しなかったのだ。



──知羽は、目の前で両親を斬り殺された。

手入れの行き届いていない刀。実戦などしたことのない村人。慣れない刀。

どれもこれもが、一撃で知羽の両親を斬ることは出来なかった。

数人で、幾度も幾度も、知羽の両親へと刀を向けた。



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