鬼神姫(仮)



「鬼神姫様にお会いするのは今回が初めてだったので緊張しました」

巴はふう、と小さく息を吐きながら言ってきた。

ーー緊張。

そんなものは忘れていた。

兎も角、自分のやるべきことだけを考えていたのだ。

「早雪(さゆき)様はお元気ですか?」

巴の問いに陽は眉を小さく動かした。

「いや、此所に来る少し前から会ってない」

陽は素直に答え、彼女の明るい笑顔を思い出した。先輩、と大きな声で呼ばれるのが好きだった。

人前でも恥ずかしげもなく抱き着いてくる腕が好きだった。

何の惜しみもなく与えてくれる愛情を愛していた。

脳裏に浮かぶのは彼女だけ。心底愛しいと想うのも彼女だけ。

それが例え過去世から決められたものだとしても、彼女以外の人なんて考えられなかった。

「……そうですか」

事情を察してか、巴はそこで口をつぐんだ。



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