透叫
「あ…え…?な…んで…」
心拍数の上昇に冷や水を被ったような寒気と汗を一度に感じる。
樹乃は震える手を抑えることもできずに、高宮の言葉を待った。
「今日、休憩時間に皆が話しているのを聞いたんだ。樹乃と四黒店長が不倫していたって…」
「違う!!」
高宮の言葉に反射するように樹乃は叫んだ。
不倫だなんて、そんなんじゃない!
なんでそんな…!
「何が違うんだ?給料上げてもらうために、自分の身体を差し出してたんだろ?売春とたいして変わらないじゃないか」
高宮の冷めた声は樹乃の胸に突き刺さっていく。
まるで人格が変わってしまったような様子で、高宮はなおも続けた。
「それから、四黒店長が戻ってくるそうだ。俺は元いた店に戻るから、どのみちさよならだよ。よかったな。また給料上げてもらえるぞ」
もはや返す言葉も気力も削がれた樹乃は、涙を零していることにも気付かずに呆然と高宮の声を聞いていた。
耳に当たる携帯がやけに冷たく感じる。
掌に伝わる温度は熱いのに。
「樹乃、聞いてるのか?安い部屋見つけておいたから、荷物まとめておけ。帰ったら送っていくから」
高宮は一方的に言って電話を切ってしまった。
規則正しい通話終了の電子音を聞きながら、樹乃は勝手に出てくる涙を恨めしく拭った。
ずっとこうなる事を恐れてた。
でも白さんなら、許してくれるかもしれない。
そう思っていたのが間違いだった?
樹乃は涙をTシャツの袖で乱暴に拭い続け、そのせいで目元が赤く腫れ上がってひりひりと痛んだ。
だが気にすることもなく拭い続けていたが、さすがに鼻水は袖で拭く気になれず、仕方なく億劫ながらもティシュを探した。

