緑色少年
「いないじゃない」
準備室の扉の前。
ドアは鍵がかかって開かないはずだから、私たちはドアの窓から中を覗いている。
誰も使ってないからか、教室の中は目で見て分かるくらい埃っぽかった。
「やっぱ、ただの噂だったのかなあ」
「・・あの女子生徒・・・どうしてくれようかしら」
「どうもしないほうがいいとおもうな・・?」
明らかに殺意を含ませた声で、物騒なことを呟いた美奈子に私は冷や汗たらり。
「もういいわ、葵、帰りましょ」
「はーい」
背を向ける美奈子の後に続いて、私も準備室に背を向けた。
・・後ろで一瞬なにかの気配を感じたことは、きっときのせいだろう。
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帰り道。
美奈子と帰路を辿って半分を過ぎたころ、私ははたと気づいた。
「・・あああああ!!!」
「どうしたの、いきなり」
「かっ、かばん・・忘れちゃっ・・!」
「かばん?」
美奈子が私の手元を見る。そこには、確かにあるはずのものが無かった。
「きっと、準備室で忘れちゃったんだ・・!」
教室の中を見るときに、下にかばんを置いてたから・・!
「馬鹿ね・・。もういいんじゃない?明日取りにいけば」
「いやダメだよ!明日の再提出用のレポート用紙があるんだから」
「・・どーせ書かないくせに」
「うっ・・つ、次は書けるよ・・怒られたくないし」
「どうかしらねえ」
こ、こいつは、よくもぬけぬけと酷いことを・・!
「とにかく、私は戻るよ」
「ついていこうか?」
「いーよ、悪いし」
「そう?・・じゃあね、葵」
「うん、ばいばーい」
美奈子と別れて、私は帰路に背を向けた。
小走りで10分たらずの道を渡って、学校についた時には部活の生徒達以外はすっかり誰もいなくなっていた。
「よかった、あった」
巡回の先生に拾われているかもと思ったが、それはまだ準備室の前に残っていた。
置き去りだったかばんを拾って、何気なく見た準備室の窓の外。
「・・・ん?」
ふと違和感を感じて、ドアに顔を押し付けるようにして中を見た。