そのキスの代償は…(Berry’s版)【完】
プロローグ

手に入れた物

会社の飲み会の帰り、今日は覚悟を決めて同じタクシーに

わざわざ乗り合わせた私。


4人乗っていた同僚は1人、また1人と降りて行き、

私とあの人が残る。

あの人の家そばについたのだろう?

あの人は運転手に声をかけ、

マンションの駐車場にタクシーを停めさせる。


「じゃ」


それだけ言ってあの人もタクシーを降りた…








降りた…






ドアが自動で閉まり

「どちらに向かったらいいですか?」

運転手の丁寧な言葉に、私は黙り込んだ。

降りなきゃ…言わなきゃ…


このままでは何も変わらない。

それなのに、あの人が下りた後、

これからすることに躊躇する自分を…嘲笑う。


「お客様?どちらへ?」


運転手は私に聞こえていないと思ったのか、さっきより

大きな声でもう一度私に問い直した。



その声にはっとしたが、意を決して私はバッグを肩にかけた。


「すみません。私もここで降ります」


そうは言ったものの、足がもつれてしまって思うように動けない。


「お客様、大丈夫ですか?」


優しい運転手の声に、私は焦るのをやめ、その場に止まり

一度深呼吸をした。


さあ、行こう。


「ごめんなさい。ありがとうございました」


走り去っていくタクシー。もう引き返せない。




私はあの人の後を必死の思いで追いかける。


必死の思いで走っても、酔った足は思うように前に出ない。

遠くに見える後ろ姿。もどかしい…

何か言わなきゃ…


「今夜限りでいいから…」


追い付かないあの人に向かって思わずそう叫んでいた。

あたりは静かで、私の声が響く。

あの人の後ろ姿が止まった。こちらに振り向いたかと思うと

目を見開いてこちらに向かってやってくる。




「何かあったのか?」


私を優しく見つめ、かすれた声で囁いた。


「やっと…私…だから…」


うつむいたままこぼす。


「お前、そういう意味でいってるんだよな?」


「…はい」


「自分の言っていることがわかっているのか?」


私はそれ以上声が出ず、頷いた。しばらくの間、沈黙。








「わかった…ついてこい」


あの人は建物に向かって再び歩き始める。

私はうつむいたまま、その少し後をついて行った。
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