素敵な上司とキュートな部下
『やっぱり、誰かが動かないと話が進まないわね?』


少し間が空いてから、志穂はキッパリとした口調でそう言った。


「誰かって?」

『そりゃあ、関係者の誰かよ。大輔君か香川さんか加奈子か……。ああ、桐谷って子もそうね』

「あの子も“関係者”に入るの?」

『入るんじゃない? あんたの話を聞いた限りではね。そしてもしその子が初めに動いたとしたら、ちょっと面倒な事になるかもね?』

「え、どうして?」

『だって、その子が一番貪欲な印象があるのよ。恋に対してね』

「そうかなあ。とても性格のいい子だと思うんだけど……」

『性格の良し悪しじゃなくてさ、要するに、いかに積極的かどうかよ。積極的だと、目的のためには強引になりかねないから、危険だわね……』

「そうかなあ」

『その桐谷って子が動く前に加奈子が動いた方が……って、もう遅いか……』

「えっ?」

『花火の件で、その子は既に動いてる訳だよね? 影で何をしているやら……』

「桐谷さんが何か企んでるって事? そんな事は……」

『そうとは限らないけど、例えばその子はちゃっかり香川さんを花火に誘ったのよね? その時に加奈子も行くって言ったらしいけど、話はそれだけだったのかしら?』

「と言うと?」

『例えばだけど、香川さんをけしかけるとか、そんな事?』

「けしかける?」

『分からないけどね。私の考え過ぎかもしれないし』

「なんか、志穂の話が分からなくなって来たわ。結局、私はどうすればいいの?」

『そうね……、その子に負けないように、加奈子も自分の気持ちに正直になって積極的に行動するか、それともしばらくは様子を見るか、どちらかじゃない?』

「ん……」

『どっちにする?』

「今は決められないわ。よく考えてみる」

『そうね。よく考えて、しっかりね?』

「うん……」


電話を切ってから、恋に奥手な加奈子の事だから、きっと後者を選ぶだろうな、と志穂は思った。

< 113 / 210 >

この作品をシェア

pagetop