素敵な上司とキュートな部下
言葉だけでなく、香川の足も止まってしまった。

仕方なく加奈子も立ち止まり、香川の顔を見上げた。香川は、何かを言いたそうなのだが、それを躊躇している様子だ。

その時、加奈子はハッと気付き、腕時計に目をやった。

こんなに帰りが遅くなったのは久しぶりだが、加奈子の記憶が正しければ、もうすぐ終電が来てしまう時刻だ。今すぐ駅に向かって走ったとしても、ギリギリ間に合うかどうか、というぐらいに差し迫っている。


「あ、あの……」

「来てくれるかな?」


加奈子が『終電が来ちゃうので』と言い掛けたのと、香川が躊躇していた言葉を発したのはほぼ同時だった。


「は、はい! 終電が来ちゃうので、私はここで失礼します!」


加奈子はそう言って香川に会釈すると、慌てて駅に向かって駆け出した。


この時の加奈子は終電の事しか頭になく、香川が最後に放った言葉の意味を、考える余裕は全くなかった。まして、香川が嬉しそうに微笑みながら、加奈子の後ろ姿を見送った事など、知る由もなかった。

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