はじまりは政略結婚
もしそうだとしたら、かなり前から智紀を好きだということになる。

「そうだ。悪いけど、由香もテレビ局まで来てもらっていいか? うちへ寄る余裕がなくてさ……」

彼の声にハッとした私は、気を取り直して返事をした。

「うん、大丈夫よ。私は、そこから帰るから」

警察に止められるギリギリのスピードで走ってる智紀に対して、先に自分を降ろせとは言えない。

「本当にごめんな。まだ時間も早いし、局内を見学して帰ってくれていいから」

「ありがとう、じゃあそうしようかな」

気遣ってくれる智紀の気持ちが嬉しくて、そう答えてみたけれど、やっぱり局内の雰囲気はまだ苦手だ。

このまま一緒に連れて行かれるのは仕方ないとして、彼と別れたら早々に帰ろう。

あり得ないとは思うけど、海里とバッタリ会ったら大変だ。

車はいつもの様に地下駐車場に入り、智紀は足早にスタジオへ向かった。

その姿にモヤモヤとした苦しさを感じながら、彼と別れたフロアからエレベーターへ戻ろうとした時、

「由香さん」

背後から女性の声がして振り向くと、そこには里奈さんが立っていたのだった。
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