はじまりは政略結婚
「悪い、里奈。由香をタクシーに乗せたらすぐ行くから、先に戻ってて」

なぜだか智紀は焦った口調で、里奈さんにそう言っている。

まさか、私が彼女と顔を合わせることを嫌がっているとか?

智紀の元カノを前に、そんなことを考えてしまった。

「ええー? 由香さん帰るの? せっかくだから、見学してもらえばいいじゃない。あ、そうだ! 穴が開いたエキストラの人、由香さんに代役してもらったら?」

里奈さんが唐突に言ったことに、智紀の焦りはさらにあからさまになっている。

「えっ⁉︎ それはダメだ。だいたい、由香は素人だろ? いくらエキストラでも、由香には務まらないよ」

何を話しているのか分からないけど、智紀の言葉はさっきから腹がたつ。

何がなんでも、私をここから追い返したいみたいだけど、そんな彼の姿に少し反発してみたくなった。

「エキストラって、ドラマの撮影でもしてるんですか?」

不本意だけど里奈さんに話しかけると、彼女はゆっくり首を横に振った。

「いいえ。雑誌の撮影なんです。海里って知ってます? 彼と、若手女優の桜さんが一緒に出るファッション誌の撮影をしてるんです」
< 184 / 360 >

この作品をシェア

pagetop