はじまりは政略結婚

突然出てきた元カレの名前に、私は一瞬固まる。

まさか、ここで撮影をしていたなんて思わなかった。

ましてや桜さんと一緒だなんて、さらに驚きだ。

「なんで、ここに海里がいるの？ 確か、お兄ちゃんから、海里はライバル事務所のモデルだって聞いてたのに」

ここは何としても、智紀に過去を疑われないように平静を装わないといけない。

だからあえて彼に話題を振ってみたけれど、かなり仏頂面をされてしまい、かなり怒っているのが分かる。

「よく知ってるんだな……。中立の出版社もあるから。それより、由香は帰れ。里奈も、つまらないことを考えるなよ」

何をそんなに怒っているのかが分からないけれど、智紀は元カノ里奈さんと頻繁に会える場所にいるのだと、改めて分かって気分は悪い。

だけど、ここにいたら海里と出くわす羽目になりそうだ。

二人を残すのは気がかりだけど、仕方ないからおとなしく帰ることに決めたのだった。

「分かった、私帰るから」

智紀にそう言うと、彼はホッとした表情を浮かべている。

そんなに嬉しいのかと、複雑な気持ちを感じていると、里奈さんがとっさに私の腕を掴んだのだった。

「待って。由香さんも行きましょうよ。せっかく可愛いのに、もったいない」