はじまりは政略結婚
息が耳にかかるほどの距離で聞く彼の声は、拒絶したい気持ちとは裏腹に、聞き心地良く感じてしまっていた。

智紀は派手な外見とは違って、声が低めで落ち着いている。

だから耳元で聞いてしまうと、ドキッとする自分がいて嫌になった。

「一緒に……?」

「そう、一緒。ほら、リビングからの眺めは最高なんだ。街が一望できて綺麗なんだぞ?」

まるで魔法をかけられたみたいに自然と靴を脱いで、正面のリビングへゆっくりと歩く。

モノトーンで統一された部屋は、二人がけのソファーが二組、向かい合って置かれていて、壁際にはワインセラーがある。

そしてさらに奥にはカウンターキッチンがあり、そのさらに奥には寝室なのか、部屋が二つあった。

テレビは壁にくっついているタイプで、両脇にはスピーカーが置かれている。

智紀に勧められるまま窓へ行くと、彼が開けてくれた。

初夏の心地よい風が入ってきて、無意識にそのままバルコニーに出ていたのだった。

「本当にキレイ……。街の景色がよく見えるのね?」
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