はじまりは政略結婚
ドキドキな同棲生活
顔だけ振り向かせると、智紀が穏やかな笑みを浮かべて立っている。

「だろ? 中心部からは離れてるから、騒がさしさはないのに、景色はバッチリ見える。立地は最高なんだ」

「本当ね。智紀がこんなマンションに住んでるなんて、思わなかった」

こんなロマンチックな場所に、ずっと一人でいたわけじゃないだろうけど、実は彼のプライベートはよく知らない。

恋人の話はチラホラ兄から聞いていたけど、興味を持っていなかったからまるで覚えていないのだ。

夜景に目を移し眺めていると、突然後ろから抱きしめられた。

「と、智紀⁉︎ 何?」

ふわりと香る柑橘系の香りは、以前から愛用している彼のコロン。

それに包まれた私は、動揺を隠し切れずに、智紀の腕を離そうとしたけれど、その力は強くまるで動かない。

それに、ただ抱きしめられているのではなく、顔が近付いているのが分かってさらに緊張は増してきた。

やっぱり、警戒心なくついて来たこと、そして夜景につられて隙を見せた自分を後悔する。

もしかして、智紀は私と体の関係を求めているのかもしれない、それを考えたら心底自己嫌悪に陥いった。

だから、派手な人は嫌い……。

恐怖と情けなさで涙が浮かび始めた時、智紀のゆっくりと、そして落ち着いた声が聞こえたのだった。

「好きだ、由香」
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