ヤンキー君と異世界に行く。【完】
──ドンドンドン!!
広間じゅうが沈黙で包まれたとき、突然入り口の扉が叩かれた。
「何事だ?」
セードリク王が言うと、部下の精霊が扉を開ける。
すると、そこに飛び込んできたのは……
「きゃあっ!」
仁菜は思わず悲鳴をあげる。
それは、傷だらけになり、片耳を切り落とされた、精霊族の姿だった。
「な……っ」
「王……魔族です、魔族が……」
「魔族だと!?」
広間にいた精霊族の間に、緊張が走る。
それは仁菜たちにとっても同じだった。
「魔族が、泉に……」
そこまで言って、傷だらけの精霊は倒れてしまった。
「……戦いの準備だ!急げ!」
セードリク王は、部下たちに指示を出す。
そのとき、ひとりの男が立ち上がった。
「セードリク王!」
低く、地を振るわせる声で、彼は王の名を呼ぶ。
「……アレクさん……」
仁菜たちも立ち上がり、王の前に立つアレクを見つめた。
「俺たちに、手伝わせてください」
「…………」
「お願いします。
あの泉を守りたい気持ちは、俺も同じです。
魔族を退けたあと、剣を手に入れられたなら……俺はそのあと、どうなってもかまわない。
八つ裂きにしてくれてもかまわないから、俺たちを泉に行かせてください!」
アレクは、大きな体を折り曲げ、セードリク王に頭を下げた。
(アレクさん……そっか、泉はエルミナさんと出会った場所だもんね……)