ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「颯っ!!」
思わず仁菜も、茂みから出てしまった。
言い争いをしているルカとロカは気付いていない。
そのすきをついて、颯は泉の縁へ走り……
--ドボン!
なんと、ためらいもなく泉の中へ!
「颯ぇっ!!」
仁菜はゆらゆらゆれる波紋に向かって叫び、手を伸ばす。
「危ない!」
その体を抱き、泉から離したのはシリウス。
「颯、颯っ!」
「ニーナ、落ち着け!
泉に入るのは危険だ。呪いに傷つけられる」
「じゃあ、颯は……!?」
ルカみたいに吐き出されはしなかったけど、きっとタダでは済まないだろう。
泉の奥底に引きずりこまれて、帰ってこない可能性もある。
「颯……!」
仁菜は泉に向かって、叫ぶ。
「エルミナさん、お願い!颯を返して!」
その声に反応したのは、アレク。
そして、仲間たち全員だった。
「お願い、お願いします!
アレクさんは、あなたを愛してたの!
だからもう誰も、呪わないで……!」
シリウスの腕を振り払い、泉の縁で土下座する仁菜。
そんな彼女を、誰もがあ然と見つめていた。
「なに、あのこ」
「女の子?」
ルカとロカが、やっと仁菜に気づく。
仲間たちは、全員で仁菜を囲んだ。
「エルミナさん、アレクさんもここにいるの!
お願い、姿を現して!」
仁菜の叫び声が森に響く。
(颯……!)
泉の水面はしんと静まり、颯が上がってくる気配はない。
(やだよ、颯……!
こんな異世界で、あたしをひとりにしないで!)
気づけば、涙がこぼれていた。