Blood Tear
切り裂かれたローブを染める血の色は赤ではなく黒。
怪我を負っている筈なのに傷口は何処にもなく、そっと触れた身体は冷たく体温を感じない。
ゆっくりと胸は上下し、微かに開いた唇は酸素を吸っている。
人間でなければ一体何だと言うのか。
何ともいえない表情でレグルとシェイラは思考を巡らす。
「とりあえず、部屋へ運びましょう」
「…そうだな。考えるのはその後だ」
空いている部屋へ運ぼうと女性へと手を伸ばすレグル。
しかし身を屈めた所で彼は動きを止めた。
「…ぅぅ……」
苦しそうに唸りながら女性は意識を取り戻す。
露わになった翡翠色の双眼。
自分を見下ろす1人の男性をその瞳に映し、彼女は何処からか取り出したナイフを彼に突きつけた。
「お待ち下さい!」
その声にナイフの動きは静止する。
ナイフの切っ先をレグルの喉元に突きつけたまま、声をあげたシェイラへと翡翠の瞳は向けられた。