恋するマジックアワー(仮)

部屋に戻ると、携帯の着信が鳴った。

慌てて手に取ると、ディスプレイには【パパ】の文字。


なんだ、パパか……。


って、あたしなにがっかりしてんの。

画面をタップすると、すぐに明るいパパの声が聞こえてきた。


『メリークリスマス! 海!』

「め、メリー……クリスマス、パパ……」

『なんだ元気ないな?まさか、風邪でも引いてるんじゃないだろうな?』

「そんなことないよ」


パパってば。
いつも通りのパパがおかしくて、胸の中がほわりとあたたかくなる。


『愛さんは?愛さんも元気か?』

「へ?愛さん?……」


っは!

そうだ……パパ達には、洸さんの事言ってないんだ。
洸さん自身も、あたしがこの事隠してるの知らない。


「げ、げ、元気だよ?全然元気」

『そうか。ならいいんだ。挨拶にも行けてないからな。そうだ、ふたりで正月は遊びに来たらどうだ?』

「うんうん。……えっ!!?」


あ、遊びに?

ふたりで?


「そ、それは無理だと思うな!愛さんお仕事大変みたいだし、それに……あ、あたしも忙しい」

『忙しいって、お前何してるんだ?バイトはしてないだろ』

「それはそうなんだけど、とにかくあたしが忙しいから愛さんも無理だよ。パパ、あたし達元気だから心配しないで?また家に戻るから」

『そうか?それなら仕方ないな……。海からもよーくお礼を言っておいてくれよ?』

「う、うん、わかった」


なんとかパパからの電話を切ると、一気に疲労感に襲われる。

ガクッと机に手をついて、大きくため息をついた。


「はあ……焦った。でも、このままがいいってわけじゃないよね。別にやましい事なんてないし、説明したらわかってくれるかな……」


テーブルに飾ってある写真立ての中には、幼いあたしとまだ若いパパが笑っていた。


と、その時。

手の中に握りしめていた携帯が、再び震えて思わず飛び跳ねた。

慌てて出ると、今度は穏やかな声が聞こえた。


『おう。今家か?』

「え?うん、そうだけど……」

『近くまで来てるから、ちょっと出てこれる?』


そう言ったのは、牧野だった。


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