恋するマジックアワー(仮)
慌てて部屋着を着替えて、ボサボサの頭のまま急いで外に出る。
ここまで来てもらうわけにはいかないから、大きな通りまで出た。
「牧野!」
ガードレールにもたれていた牧野が、あたしの声に顔を上げた。
「ど、どうしたの……急に」
走って来たもんだから息が上がってしまう。
あからさまに部屋でゴロゴロしてましたって感じのあたしを見て、牧野は可笑しそうに笑うと何かを差し出した。
「やる」
「え?」
突然差し出されたそれに、呆気にとられていると、俯いていた頭にポンッと手が置かれる。
「バイトで余ったから、寂しい立花にやるよ」
「……さみしくて悪かったわね」
でも、わざわざ届けに来てくれたんだ。
その優しさに胸の中があったかくなる。
牧野の手からぶら下がったそれを受け取ると、そっと中を覗き込んだ。
「わあ、ケーキだ。美味しそう」
「全部食うなよ。 太るから」
「平気だもん。 そのあと半身浴するし」
「それ意味あんの?」
少し前のあたしなら、こんなふうにされたらきっと勘違いしてた。
あたしに好きな人出来たって、留美子から何か聞いてたりするのかな。
嬉しいな……ありがとう、牧野。
「それじゃ、俺まだバイトあるから」
「うん。ありがとう! これ……嬉しかった」
にっこり笑うと、自転車にまたがった牧野は、少し照れくさそうにはにかむとそのまま勢いよくペダルをこいで走り去った。
冷たい風が、長い髪を揺らし、コートの中へ入り込んだ。
もらったケーキを抱えて、家に急ぐ。
帰ったら、食べよう。
シャンメリーも買ってあるんだ。