恋するマジックアワー(仮)

「……はい、薬。飲んだらまた寝てください」


覚えてないんじゃしかたない。
けど、本当は大声で叫びたい。


「海ちゃん」


お盆を持って立ち上がったあたしを、洸さんは呼び止めた。


「……なんですか?」


ポイッと投げられた冷えピタが器用にごみ箱に入って行く。

無神経なうえに、横着。

本当に、この人は先生なんだろうか。




「帰って来いよ。……帰って、くるだろ?」



そして、残酷だ。
優しくて、残酷な洸さん。


そんなふうにジッと見つめられたら、いやでも心臓が加速する。



トクン トクン


ダメだってわかってるのに。
忘れなくちゃいけない人だって。


「……うん。まぁ、家賃は半分だし」

「ははっ。 うん、半分だしな」


それなのに、こんなふうに笑うから。
7歳も年上の彼に、あたしの小さな母性本能がくすぐられる。

芽生えたばかりの恋心が、煽られる。



「海ちゃんのお粥、めちゃくちゃうまかった。 さんきゅ」



寝癖だらけの髪が、ふわりと揺れる。
端正な顔が、くしゃりと崩れる。


洸さん、ずるいよ……。

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