恋するマジックアワー(仮)
はあ、と深いため息をついた洸さんはあたしの手からペットボトルを抜き取った。
「あ、それあたしのお水……」
蓋にはしっかりと”うみ”と書いてある。
そんなのお構いなしって感じで、洸さんはごくごくっと喉を鳴らした。
「もぉ」
口の端についた水をクイっと手の甲でぬぐうその姿に、パッと顔を逸らす。
こーゆうのを間接キスって言うんだけどな……。
「……めずらしいね。洸さんがお酒なんて」
ジロリと睨んでみる。
洸さんはキッチンを背に体を預けるようにして、「そうかな」って言いながら視線を投げた。
あたしの小さな反撃は、どうやら洸さんには効果ないらしい。
くやしい!
「先生たちとの親睦会。……とは名ばかりの、ただの飲み会でした」
言って、黒縁メガネを外す洸さん。
なんだか洸さんをまとう鎧が溶けていくみたいで、ちょっとだけ胸がざわざわする。
気をぬくと意識しちゃいそうで、慌ててグラスを手に取った。
「先生たちでも飲み会みたいのするんだ」
「するよ、普通に。 まあ俺は参加したことなかったんだけど。修学旅行の予定も話合うなんて言われて半ば無理やりな」
「えっ」
思わず顔を上げる。
「洸さん、修学旅行行くの!?」
「……まあ。 一応大人の目を多くってことで。俺安いんかな」
本当に面倒臭そうに言ってまたペットボトルを仰いだ。
最後の方はほとんど愚痴っぽくなってたけど。
うそ。ほんとに!?
本当に、一緒に行けるの? 洸さんと沖縄だっ(なんかちがうけど)
「やったぁ! うれしい!」
たまらず飛び跳ねちゃう。
2泊3日の間、洸さんに会えないと思ってたから。
「っはは。俺、先生の立場だからな?キミらがはめ外さないように監視するんだからな?」
「それでも洸さんもいるって思うだけで、めちゃくちゃ嬉しいよ。楽しみっ」
「……」
きっと、だらしない顔しちゃってるんだろうな。
グラスにティーパックと氷をたくさん入れて水を注ぐ。
自由行動は、先生たちはどうするんだろう。
あわよくば、洸さんとの思い出も欲しいなぁ。
ちょっとだけ合わせちゃってもいいかな。
洸さんになんとなく探り入れて、それで留美子に相談して……。
ん?
なんかものすごく見られてる?
顔を上げると、洸さんはなんとも言えない表情でそのまま視線を彷徨わせた。