恋するマジックアワー(仮)
あたしもコクリと返して、もう一度パパを見上げた。
「ほんと、大丈夫だから。
それに、沙原(さはら)さんって、真帆さんのお友達がお部屋貸してくれるんでしょ?1人暮らしって訳じゃないんだから、そんなに心配しないで」
一体どっちが子どもなんだろうと、まるで母親みたいな事を言う自分に思ってみたり。
それでもパパは、納得したように顔をあげた。
「沙原さんには、迷惑かけるんじゃないぞ」
「うん。それもわかってる。高校卒業するまでの間だもん」
そう言って、あたしはキャリーバッグに手をかけた。
「海ちゃん、愛は堅苦しい子じゃないから、そんな遠慮しないで。でも、それでも無理だと思ったらいつでも帰ってきてね」
「うん、そうする」
ここは素直に頷いておく。
なんだかんだで真帆さんも心配性なんだよね。
そう思いながら、あたしはふたりに見送られて家を出た。
表にはタクシーが待っていて、さっさとそこへ乗り込むと、待ってましたとばかりに走り出す。
そっと振り返ると、中古で買った見慣れない家の前に、見慣れた顔で手を振るパパと真帆さんがいて。
それに応えながら、「バイバイ」って心の中で呟いた。