恋するマジックアワー
はあ……。
トサッとシートに背中を預けると、自然とため息が零れた。
流れる窓の景色に目を向ける。
住宅街を抜けて、車はいつの間にかビルの谷間へ。
向かうのは、それもさらに越えた郊外だった。
これからわたしは、高校を卒業するまでの間、真帆さんのお友達の、沙原さんと言う人の家にお世話になる。
今まで一緒に住んでいた同居人が海外へ転勤になったとかで、急遽シェアできる人間を探してたんだって。
パパ達の結婚式でその話が持ち上がり、わたしは迷わず飛びついた。
愛さん本人にはまだ会えていないけど、真帆さんから写真は見せてもらっている。
ショートの似合う、活発そうな美人だった。
彼女は今、美術品を海外から買い付ける仕事をしているらしく忙しい日々を過ごしているんだとか。
家賃も半分でいいって言うし。
ほんとに学校から歩いて行ける距離だし。
ちょうどよかった。
再婚して買った、あの中古の家は、学校からは遠すぎるし。
遠慮するなって言われても……
新婚さんの生活に素直に溶け込めるほど、わたしはもう子供じゃない。
気が付くと、車は見慣れた風景の中をひた走っていた。
ここはわたしが通う、高校の近く。
緑が多くて、都会とは違って空が広い。
「あの、ちょっと窓開けてもいいですか?」
運転手さんにきいて、少しだけ窓を開けてもらった。
瞬間勢いよく吹き込んでくる風が、長く伸ばした髪を揺らす。
ムッとした熱気を含んだ空気が体を包んだ。
深くて青い、夏の空。
その青にどこまで伸びていく真っ白な入道雲。
わたしの人生を変えた夏休みが、終わろうといていた。