恋するマジックアワー

昨日も思ったけど、洸さんって綺麗。
……すごく綺麗。

パーツが整ってるのはもちろんだけど……。
切れ長の瞳は、間近で見ると少し茶色くて。
ずっと見つめていると飲みこまれちゃいそうだ。


そう、あの時……。

にわかに鼻をかすめた、煙草のほろ苦い香り。
息が触れる距離で、見つめられた、昨日の夜……。


知らず知らずに思い出して、勝手に頬が熱くなる。


こんなふうに見つめられると正直どうしていいかわからなくなる。



「な、なんで、こ、洸さんがここにいるんですか?」


うわ、めちゃくちゃどもってるし。


さらに距離を詰める洸さんは、面倒臭そうに腕組をすると、ジロリとわたしに視線を落とした。

あからさまに不機嫌な顔をして、大きな息を吐き出しながら唸るように言った。



「海ちゃん。ここの生徒?」




……はい?



ここの生徒?


「な、なに言ってんですか? もちろんそうです!」


バッと両手を広げて制服を見せつける。
はあ?って今度はわたしが不機嫌になる。

洸さんは、そんなわたしなんかお構いなしで腕組みをしたまま「だよねぇ」ってさらに唸るように言ってため息を零す。



「わたしより、洸さんはなんでここにいるんですか?まさか本当に美術部の顧問?」

「え? ああ、うん。そうだよ。今年からこの学校に入ったんだけど……って、海ちゃん俺の事知らなかった?」

「全ッ然。まったく知らなかった」

「はは。それヒドイなぁ」



噛みつくように言うと、洸さんは眉を下げて笑った。


笑ってる場合なの!?

本当に困ってるのか、それとも別に何とも思ってないのか。

だって、まずくない?
そうすると、わたし達は仮にも先生と生徒。

一緒に住んでるってバレたら、大変な事になるんじゃ……。


わたし……やっぱり出てくことになるのかな。
どうしよう……。


その時、HR開始のチャイムが響いた。



でも、今のわたしはこれからの事で頭がいっぱいで。

誰かが美術室の扉を開けようとしている事に気が付かなかった。


ガラガラ!




「沙原せんせーい」

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