恋するマジックアワー
「……あれ? 先生どこにいったんだろう。職員室にいないからてっきりここかと……。入れ違いになったかな」
「なーんだ。朝イチで課題みてもらいたかったのに」
教室の入り口で、女子生徒達の声がする。
でも、わたしからその姿は見えない。
なんでって……。
だってそれは……。
「……」
「……」
視界いっぱいに、ダークブルーのネクタイ。
それと、浮きだった喉仏。
強い力で腕を引っ張られたと思ったら
次の瞬間には、机の下で洸さんに頭をギュッと抱え込まれていた。
ち、近い……。
ふわりと、まるで抱きしめられてるような感覚に、心臓がありえない速さで加速を始めた。
ドックンドックン
廊下で話す彼女たちの会話以外、何も聞こえない。
静かすぎる美術室。
わたしのこの心臓の音が、洸さんにバレちゃいそうだ。
「あ、あの……」
耐え切れなくて、引き寄せられた隙間から洸さんを見上げた。
でも。
洸さんは、わたしの頭を抱え込んだまま、人差し指を静かに口元に添えて。
『しー』
なんて笑う。
まるでこの状況を楽しんでいるような、そんなイタズラな笑顔に固まっていると、扉が閉まる音がして、足音が遠くなっていった。
それから少しの沈黙の後。
ようやく押さえ込まれていた頭が解放されて、洸さんはさっさと机から這い出た。
「あービックリした」
取り残されたわたし。
しばらく体は、いう事を聞いてくれなかった。
……この人、危ない。