恋するマジックアワー
ようやく立ち上がると、美術室の窓から見える渡り廊下にたくさんの生徒の群れが見えた。
その先は体育館。
すでに始業式の時間らしい。
やば……HR出れなかった……。
あちゃー……
その時、すぐ後ろで洸さんの声がした。
「あ、もうそんな時間か」
「……先生ならこんなところにいて怪しまれないの?」
わたしが思ってるのと同じような事を言う洸さんに呆れつつ、ジロリと顔を上げた。
ん?って首を傾げながら目を瞬かせた洸さん。
その距離が思ってたより近くて、ギョッとして慌てて距離をとった。
「だって俺担任もってないし。副担もないし。やってる事なんてそんなにないんだよね。あ、これでも美大出てるから、美術部顧問って事になってるけど」
「……」
なんかいい加減……。
ずり落ちていたメガネをクイッと指で押さえながら、洸さんは笑った。
「それじゃ、わたし……行くんで」
これ以上ここにいるのは、まずい。
それにきっと、留美子も心配してる。
あんまり遅いと、担任にも何言われるかわかんないし。
これからの事は、家に帰ってからじっくりと話せばいいや。
わたしは小さく頭を下げて美術室の出入り口に向かった。
「あ。ちょっと」
え?
そう聞こえたかと思うと、腕がクイッとひかれ、体が後ろにバランスを崩す。
でもすぐに背中いっぱいに熱を感じて固まった。