恋するマジックアワー


「うーん、残念。もう少しだったんだけどねぇ」


そう言って、それでも楽しそうに笑うおじさんを見て、ため息が出た。

絶対そんな事思ってない。
だって、わたしの球、一回もシュシュの入った箱をかすめてもないもん。


わたし……不器用なんだよね……。
こういう、狙って打つのとかって。


「えええ」


誰よりも悔しがる留美子。

と、その時。


「おじさん、俺がやる」


押し付けられるように戻ってきた巾着と、目の前には牧野の背中。


あ……。

頬に鉄砲をくっつけて肘をまっすぐに伸ばした牧野から、目が逸らせない。



ちょっと待って。
だから何でわたしの為に……。

わたしなんかの為に……。



野球部の牧野の背中は、Tシャツの上から見ても、筋肉が見て取れた。
そこから伸びる腕は、たくましく彼がギリッと引き金を引くのがわかった。



「……」



……すごい……当たった。

1回……たった1回で牧野はシュシュの箱を打ち抜いた。



「やったあ、さすが野球部エース!」



飛び跳ねるようにして、喜ぶ留美子の横で、わたしは戸惑っていた。

たぶん……今のわたしはヤバい。

顔がアツい。


「ほら」

「……あ、りがとう」


ぶっきらぼうに渡されたそれを見つめたまま、身動きがとれないでいると。
視線を感じて、ハッと顔を上げた。


そこには……。



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