恋するマジックアワー
驚いて目をまんまるくしたわたしの前に、お盆に乗った土鍋が運ばれてきた。
申し訳ないけどお粥よりも、目の前の洸さんに釘づけ。
大丈夫なの?
そんなふうにわたしを呼んでッ
って、意味で。
洸さんはそんなわたしの視線に気付くと、「ん?食わせて欲しい?」なんて慈悲深い笑みをたたえ、とんでもなく恐ろしいセリフを吐く。
嫌な汗が背中をつたう。
留美子がいるのに!
だけど、そんなわたしの心配をよそに、留美子はクスクス笑うとのんびりと言った。
「ふふ。でも知らなかったなぁ。海ちゃんにこんなカッコいい”いとこ”のお兄さんがいるなんて」
「へ……い、いとこ?」
拍子抜け。
キョトンとしたわたしを、穏やかに見つめる留美子の後ろで、洸さんはいたずらな笑みを浮かべた。
いとこってわたしと洸さんが……?
白い目で睨むわたしから逃げるように、洸さんは「食ったら寝ろよ」って短く言ってさっさと部屋を出て行った。
―――バタン
扉が閉まったとたん、長いため息が零れる。
ここに留美子が来る事に、ビクビクしてたけど。
それよりも、洸さんの言動にイチイチ反応してるな……わたし。
フルフルと首を振ったわたしに、留美子は心配そうに声をかけてきた。
「……海ちゃん?」
覗き込むようにわたしを見つめる留美子。
キャラメル色のフワリとした髪が、彼女の動きに合わせて揺れた。
大きくてクリンとした瞳に、風邪でボサボサのわたしが映る。
なんだか落ち着かなくて、わたしは洸さんお手製のお粥に口をつけた。
「……あち」
味……しない。