恋するマジックアワー

驚いて目をまんまるくしたわたしの前に、お盆に乗った土鍋が運ばれてきた。


申し訳ないけどお粥よりも、目の前の洸さんに釘づけ。

大丈夫なの?
そんなふうにわたしを呼んでッ


って、意味で。


洸さんはそんなわたしの視線に気付くと、「ん?食わせて欲しい?」なんて慈悲深い笑みをたたえ、とんでもなく恐ろしいセリフを吐く。

嫌な汗が背中をつたう。

留美子がいるのに!


だけど、そんなわたしの心配をよそに、留美子はクスクス笑うとのんびりと言った。




「ふふ。でも知らなかったなぁ。海ちゃんにこんなカッコいい”いとこ”のお兄さんがいるなんて」

「へ……い、いとこ?」


拍子抜け。

キョトンとしたわたしを、穏やかに見つめる留美子の後ろで、洸さんはいたずらな笑みを浮かべた。


いとこってわたしと洸さんが……?


白い目で睨むわたしから逃げるように、洸さんは「食ったら寝ろよ」って短く言ってさっさと部屋を出て行った。



―――バタン


扉が閉まったとたん、長いため息が零れる。


ここに留美子が来る事に、ビクビクしてたけど。
それよりも、洸さんの言動にイチイチ反応してるな……わたし。

フルフルと首を振ったわたしに、留美子は心配そうに声をかけてきた。


「……海ちゃん?」


覗き込むようにわたしを見つめる留美子。

キャラメル色のフワリとした髪が、彼女の動きに合わせて揺れた。

大きくてクリンとした瞳に、風邪でボサボサのわたしが映る。


なんだか落ち着かなくて、わたしは洸さんお手製のお粥に口をつけた。



「……あち」



味……しない。

< 60 / 194 >

この作品をシェア

pagetop