恋するマジックアワー
開いた窓から、少し肌寒い風がわたしの横髪をサラリと揺らす。
癖のないそれが、洸さんの顔に触れそうで、慌てて長い髪を耳にかけた。
洸さんの腕の下。
そこにはなにか、スケッチブックのような真っ白な紙があって、淡いタッチで流れるような線が幾つも見て取れた。
何が描いてあるんだろう。
てゆうか、こんなに熟睡するほど、早くから来てたのかな。
ジッと見つめていると、洸さんは「ん……」と眉間にシワを寄せた。
起きたのかと思い慌てて飛びのいて、その場で固まった。
薄く閉じられた唇が、少しだけ開いていて。それからすぐに、深い息遣いが聞こえた。
はぁ……。
起きちゃったかと思った。
わたしがこんなことに居たら、洸さんビックリするよね。起きる前に離れよう。
そう思ってもう一度洸さんの顔を覗き込んだ。
子供みたいな顔で寝るんだな……この人。
腕のそばに無造作に置かれた、黒縁のメガネ。
男の人なのに、キメの細かな綺麗な肌。その下に影を落とす程長い睫。
彼の顔を隠すほどの長い前髪が、ふわりふわりと少しだけひんやりとした秋風に揺れていた。
部活をやる生徒の声が
遠くから聞こえる。
どこからか吹奏楽のチューニングの音。
洸さんの、気持ち良さそうな、寝息。
トクン
トクン
わたしの、胸の鼓動。
ああ…なんか。
――全部、全部。
夢みたい。
まるで白昼夢の中。
わたしはぼんやりしたまま。
その寝顔の横に手をついて、そっと体を折り曲げた。
顔に髪がかからないか、気をつけてその無邪気な頬に、口づけを落とした。