恋するマジックアワー(仮)





「はあッ、はあッ」




無我夢中で階段を駆け上がり、見慣れた教室の前でやっと立ち止まる。


ドクン ドクン
  ドクン ドクン


身体全体が、まるで心臓になってしまったみたい。

苦しくて、息が出来なくて。
ううん、それだけじゃない。


目眩を起こしそうで、壁に手をついて、はあっと息を吐き出した。


と、とりあえず落ち着かなきゃ……。


もう一度小さく息を吐いて、教室の扉を静かに引いた。
まだ早い。
誰もいないと思っていた。


でも、ひとり先客がいたんだ。



キャラメル色の柔らかな髪が、朝日に溶けてその淵をぼかす。
机に突っ伏したその姿は、すぐにわかった。


「留美子?」

「っ!……海ちゃん?」


弾かれたように顔を上げたのは、留美子。
その顔は、驚きと絶望が複雑に織り交ざり、今にも泣きだしそうだった。



座っていたのは、あたしの席だった。



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