恋するマジックアワー(仮)

「あー、沙原っち。相変わらず今日も顔色悪い~。ちゃんとご飯食べてる?」


イライラ


「きゃはは。もっと筋肉つけた方がモテるよ?」


イライライラ


「あとメガネね。それダサいから」


イライライライライライラ……


なによ、洸さんってば女子高生苦手とかなんとか言ってたくせに。

あんな派手な子達と仲良さそうに……。

そこで立ち止まってお話するの、やめてくれないかな。
マジで。

楽しそうに話す女子たちの声がすぐ後ろから聞こえる。

それに応える洸さんの声は……聞こえない。
聞こえないだけで、話してるのかもしれないけど。

学校で話す時の洸さんは、はっきり言って何を言ってるのかわからない。


家だと、あんなに偉そうなのに……。


ムッとしたあたしの顔を不思議そうに首を傾げた留美子が覗き込む。

沙原っち?って、言ってるみたいだ。




お願い黙ってて!と、もう一度人差し指を唇に押し当ててギョッとした。

すぐわきに、見覚えのあるサンダル。
恐る恐る見上げると、逆光になった冴えない洸さんが、あたし達を見下ろしていた。



「授業、始まるけど」

「……はい」



見つかった……。

何事もなかったみたいに、そこから這い出て、留美子の手をとったまま駆け出した。
その時。


「――立花」



学校では話しかけるなって、あれほど言ってたのに。
洸さんは、はっきりとあたしの名前を呼んだ。



「廊下は走るな」


無視をする。
そう決めてからと言うもの、何故か洸さんに遭遇する確率が増えていて。


ボサボサの前髪の向こう側の、切れ長の瞳があたしを捕えるたびに。
心臓がギュってなって、痛くて。
ムカムカして。


ほんと、こんなの変だよ……。

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