だから、恋なんて。
「適当に座って?」
玄関からぐずぐずと動かない私の背中をトンッと軽く押して、自分はさっさとキッチンに姿を消す。
病院の徒歩5分圏内に位置するマンションは、医師が多く住む社宅で。
家族で暮らす医師のための3LDKもあれば、単身用の1LDKも混在している…とは聞いてはいたけれど、足を踏み入れたのは初めてだから。
「もう外じゃないんだから、そんなキョロキョロしなくても」
このマンション全体で一体何人の職員がいるのかと考えると落ち着かない。
まだ立ったままの私を苦笑しながら強引にソファに座らせる手には缶ビールが一本とグラス一個。
ご丁寧にプルタブをプシュっと開けて、グラスに注いでから手渡してくれる。
「私だけ?」
「ん?だってお腹空いたでしょ?なんか簡単なもの作るから」
「えっ?料理できるの?」
料理のできる医者なんてそうそう聞いたことがない。