だから、恋なんて。

普段多くの女子に囲まれてる師長は、やっぱり男性なだけあって、同性のドクターとくだらない話していることのほうが多い。

ほら、女子ばかりの職場って色々難しいし。誰かを贔屓してるとか、誰かには冷たいとか。本人の意識に関係なくスタッフ間に亀裂を作りかねないし。

密かに苦労人な師長のことを考えていたらICUの扉を開けてすぐのデスクに座っていた師長と目が合う。

「あ、乙部、来月会計だったよな?」

「はい、はい。さっき、榊に聞きましたよ…っていうか、師長が飲みたいだけじゃないです?」

「ち、違うよ。先生達とそんな話になって…」

軽く睨むと、慌てたように手を振る師長は、どうやら図星のよう。

師長って恐妻家だから、こんなことでもない限り飲みに出歩けないそうだし。

「オッケーですよ。また、榊と考えときますよ」

指で小さくオッケーサインを出し、年甲斐もなく嬉しそうに笑う師長を横目に午後からの業務に戻る。

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