だから、恋なんて。
笑い声と共に聞こえたその声を、容易に聞き分けてしまう自分を何故か後悔する。
「ね、だからさ、れいなちゃんも来てよ?」
「え~、どうだろ、大丈夫かなぁ」
「え、もしかして彼氏の束縛きついとか」
「やぁだ~、先生。私、今フリーなんですよ?」
上目づかいで小首を傾げてる姿が振り返らなくてもわかる。
れいなちゃんとは、青見先生を狙ってたはずの高橋さん。
中々手に入らない青見先生は諦めて、今度はチャラ医者に標的を変更したんだろうか。
それとも医者だったら結局誰でもいいってことなのか。
っていうか、あの医者はホントにどの看護師の名前もフルネームで覚えたんだ。
赴任してきてすぐのICUでの挨拶を思い出す。
あの時のチャラい印象は今ではほんの少しだけ消えたと思ったけれど、やっぱり駄目だ。全然チャラい。まだまだチャラい。
結局、私だけを名前で呼んでるわけでもないし、私だけに彼女になってなんて言ってるわけでもない。
「お疲れ様でした」
誰に言うでもなく呟いて席を立ち、控室で鞄を取ってICUを出ようとしたところで、「あ、奈~緒ちゃん」とチャラチャラした声が聞こえてチッと勝手に舌打ちしていた。